ちょっと前のコラムで、「ストレスがある人は、幸せな人」というお話しをしました。日本の養殖魚が天然魚並みに質の良い理由は、漁網にわざと天敵を入れて、あえてストレスを与えるから…という内容です。真珠は、貝に入った異物のおかげでできる産物であるという話も…。
ところでみなさんは、「海」といえばどんな風景が浮かびますか? 日本海の荒波、それとも南太平洋の島々の透き通った海でしょうか? おそらく、「青くて透明(マリンブルー)の海」を浮かべる人が多く、「濃い緑色の海」と答える人は少ないと思います。
日本のおいしい魚の多くは、瀬戸内海のような濃い緑色の海で捕れます。お世辞にもきれいとは言えないこの緑色の海の水は、魚にとって栄養価の高いプランクトン類をたくさん含んでいます。加えて、山地が近い瀬戸内海などは、川から流れてくる豊富なミネラル分にも恵まれ、おいしい魚が育つ条件がそろっている…というワケ。反面、南太平洋のような透き通った海は、「海の砂漠」のようなもの。魚たちにとっては、生きるのが過酷でツラ~い場所だそうです。
人生の中では、きれいなものより汚いものを見る機会が多い。悩みのない人より、悩める人が多い。だからこそ、人はたくましく成長できるのだと思いませんか?
以前に経営していた塾での話。遠征イベントの帰り道に、隣の市の某大手ハンバーガー店で参加者と食事中に、向かいの席の生徒が唐突に、「先生、ここのハンバーガーおいしくない」と言い出したことがありました。私は思わず、「チェーン店なのだから、味はどこも同じはず」と返しましたが、その子は頑として承知しない。他の生徒まで「確かに、三田店の方がおいしい」などと言い出す始末…。その後、気になって作り方を調べたのですが、やはり全国のどの店も同じマニュアル通りに調理しているらしく、結局、その原因究明は迷宮入りに…。
ところが昨年の上海冬期五輪で、“ロボットが100%調理した選手村の料理がおいしくない”という報道を知って、何か手がかりをつかめたような気がします。その前の年の東京五輪では、日本の人が調理した選手村の料理が世界中の選手から「最高においしい!」と称賛されたのに、レシピに完全忠実にロボットが作った料理は悪評を受けた理由。そして、隣市のハンバーガーがおいしくない理由。それは、一番大事な『愛情のエッセンス』が欠けていたということではないでしょうか? 料理を、科学や素材の力だけで片付けてはいけません。有り合わせの具材でも、『おふくろの味』は最高にうまかった! 教育も同じであると、私は考えています。
一般の方はあまりご存知でないかと思いますが、ここ1~2年は塾業界でのM&A(企業の合併・買収)が急加速しています。私の親しい友人塾長3~4名も自分の会社を高値で売って、塾経営の第一線から退いていきました。特進館学院を始める前の自分なら、たぶん「うらやま悔しいなぁ~」とフェイスブックでつぶやいていたかもしれません。でも、今はそのようには全然思わず、むしろ、「気の毒な人たちやなぁ~」と苦笑してしまいます。
だって、大好きな塾の仕事も、大好きな社員たちも、大好きな生徒たちも、大好きな仲間の塾長たちも、大好きな取引先の人々も、すべて捨てて、手元に残るのは、無機質な●●億円の札束だけ。売った後も、塾長としてずっと塾に残るならアリですが、塾を売って現場を離れてしまったら、もう社員や生徒と会うことすらできなくなります。
にもかかわらず、自らの意思で塾を売って離れたのに塾の仕事を捨てきれず未練タラタラでいつまでも周囲をうろつく元塾長を私は何人も見ています。ちょっと、みっともないです…。
だから、私はそんな生き方をしたくはありません。だって、この仕事は楽しくてやりがいがあって、この業界とともにこれからもずっと歩んでいきたいから…。